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自転車ツーキニストでいこう!疋田智の連載えっせい

疋田智

「猛暑の自転車ツーキニスト」




 暑いな。
 いやー、この数年、夏は例外なく猛暑なんだけど、今年は特にチョー猛暑だという。
 しかし、なんだ。たとえば岐阜の多治見、埼玉の熊谷なんて、もう開き直っちゃって「暑いぞ、暑いぞ、今年は我が町がナンバーワン」なんつって、最高気温を競い合ってる。そうだよね、ここまでくるともう笑っちゃうしかない。実際、そういう「暑いぞ地域」に行くと、ほんとに笑い飛ばすしかないほど暑いんだ。
 熱中症で倒れたり、中には亡くなったりする人もいるんだから冗談言ってるんじゃないよ、なんて批判もあるとかないとか聞くんだが、でも、そんな話なのか? 不謹慎? いいではないか。暑いぞわっはっはっ程度にやり過ごさないとやってられないよ。少なくとも私はそう思う。

 でもね、そうは言いながら、九州出身の私など、やはり夏は猛暑でなくては面白くない。暑いと「うっぎゃー、今日は暑いなぁ、タマランなぁ」とか言いながらも、ココロの奥底では「いいぞいいぞ、もっと暑くなれなれ」なんて思っていたりする。私ならずともそう思っている人って、実は多くないじゃろか。
 暑くて暑くて汗がダラダラ、その汗を吸ってジーンズがごわごわ(コレは確かに気持ちが悪い)、じりじり照りつける太陽の下で、空気がむっと熱風に変わっていて、風が吹くと「オレは熱風だぞ、分厚くも熱い空気だぞう」との存在感を持って、顔や腕に当たる。
 でも、それって、そんなに不快な体験かに?
 私はそうでもないよ。多く人にとっても「夏の暑さ」ってのは、そこまでシリアスには嫌われないのではないかと思うのだ。少なくとも「冬の寒さ」よりはね。
 それに、本当に我慢できないレベルの暑い日というのも、よくよく考えてみれば、7月の後半と8月の前半に合計10日という程度だろう。その程度なら「イベント」だ。

 そういえば少年時代、エアコンのない家庭も多かったな。というか、昭和40年代から50年代にかけて、私の育った宮崎県日南市では、エアコンを持っている家の方が少なかったよ。
 あの暑い暑い宮崎だったのにね。
 子供たちは「(エアコンがあるから)デパートに行こうぜ」などと炎天下、涼みに行っていたもんだ(日南市には本当に小さな2階建てのデパートがあったもんだ)。夜なんかは、窓、開けっ放し。扇風機だけが唯一の冷房だった。
 でも、それはそれで悪くなかったよ。耐え難かった、という思い出が、私にはあまりない。それよりも現在の閉め切ったマンションの中でエアコンつけている方が、なんか調子が悪い。朝、身体がだるい。
 カミさん(現在妊娠8ヶ月)が、暑い暑いというから(妊婦は暑いものなんだそうな)、エアコンにしてるけど、本来はエアコンあまりつけたくはない。現在2歳の息子についても、これでいいのかな、このままでは外国ですぐに病気になってしまうような、弱い子になってしまわないかな、と要らぬ心配をしたりもする。
 夏は暑い。
 それでいいではないか。だって夏なんだから仕方がないのだ。それが自然の摂理というものだろう。

 というわけで、夏の朝、私は自転車に乗って会社に出かけていく。昨今の私は非常に朝が早いもんで(お昼のワイドショーのプロデューサーをやるというのはそういうことなのです)、会社に着く頃に、小学生たちがラジオ体操をしていたりするのに出会う。
 東京都心だって、蝉はうるさいくらいに鳴いている。7年土の中にいて、最後の7日だけ、地上に出て、飛び、歌う。彼らはいったいこの7年というもの、東京のどこの土の中に潜っていたんだろう。でも、潜っていたのだ。私の通勤経路上でいうと、慶應大学の三田キャンパス、芝公園(東京タワーのあるところだ)、東京プリンス、そのあたりに潜っていたのかな。実際にその前を通るときなど、蝉の声はワンワン聞こえる。鳴け鳴け蝉よ。夏は短い。
 今日もこれから暑くなるぞ、今日もじりじり照りつけるぞ、でも、まだ朝、まだ爽やかな空気だ。そういう時間帯に自転車に乗るのは、人生の幸せの一つだ。
 その逆に、会社から帰る際。1日が終わって、太陽がようやく沈んで、アスファルトから火照った余熱がじんわりと伝わってくる。こういう中を自転車で行くというのも、これまた人生の幸せの一つだと思う。
 今日も暑かったね、暑い中、みんなお仕事、頑張ったね、これからお風呂に入ってビールかな、おや、浴衣姿の人もいるね、そうか、今日は○○の花火か……、なんて時分。そういう雰囲気の路地を行く。
 自転車で行くのが本当に向いているし、楽しい。

 それに対して、日中はね。さすがにね。
 これはもう自転車に乗るにはさすがにタマラン話で、気温が35度を超えると、これはもう不快でしかない。何より熱中症の危険がアブない。気づけば頭痛が痛くなってくるし、なんだか吐き気が吐きたくなってくる……、という具合に、自転車に乗っているウチにアタマがヤバくなってきたら、停まって日陰に入って、スポーツドリンクだ。何はともあれ、水分と塩分。今の季節には最も気をつけるべき部分である。
 特にツーリングなどの際には、当然、真っ昼間を走るわけだから、注意だ。一番日差しが強い時間、つまりお昼の2時前後は「お休み時間」にしてもいいな。
 かつて私は、会社の先輩から「お昼の12時から15時まではロケは休みにしろ」とアドバイスを受けたことがある。赤道直下、ミャンマーや、ペルー、中東取材に行くに際しての話だ。現在の日本、特に東京は、そのレベルの気温の都市になってしまっている。
 でも、夏は悪くないよ。
 その証拠に8月の終盤、ツクツクボウシの声を聞く頃になると、みんな「ああ、夏も終わったな」と何だか寂しく感じてしまう。
 2010年、私ヒキタでいうと、43歳の夏。
 いつも、夏は短い。そして、同じ夏は二度とめぐってはこないのだ。

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