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安井行生のロードバイク徹底インプレッション
【自転車大図鑑】日本で手に入るバイクを目的に合わせてカンタン検索
あの名車「ピナレロ・プリンス」が最新マテリアルで復活
話題性ナンバーワンの08モデルとして華々しくデビューしたピナレロ・プリンスカーボン。
完成車価格110万円オーバーと非常に高価なバイクだが、
ライター安井がヒルクライムを含む100kmを乗り込んでその実力を徹底レポート!
(text:安井行生 photo:山本修二/安井行生)
  97年のツール・ド・フランスでドイチェテレコムチームにプロトタイプを供給し、翌年のミラノショーで世界初のインテグラルヘッド/カーボンバック搭載モデルとして正式にデビューした初代「ピナレロ・プリンス」。動力性と快適性を両立させた高性能を武器にプロレースで数々の勝利を獲得し、マーケットでも人気に火がついて大量のバックオーダーを抱えるまでの人気モデルとなる。このバイクはいつしか“名車”と呼ばれるようになり、ピナレロ社はロードバイクシーンの先駆者として確固たる地位を築いた。そして今年、あの「ピナレロ・プリンス」がフルカーボンになり復活したのである。

  3年間に渡り極秘に開発が進められ、ケスデパーニュチームとともに風洞実験や応力解析、実走テストを繰り返し、ついに2007年のツール・ド・フランスで実戦配備された2代目のプリンスは、この時代にあって当然というべきかフルカーボン化。その素材は東レから自転車カテゴリーではピナレロに独占供給される50tグレードのハイモジュラス1Kカーボン、とアナウンスされている。モノコック構造のメインフレームにONDA FPXフォークを搭載し、一足先にフルカーボン化されたパリ・カーボンに比べ15%の剛性アップを果たしているにも関わらず、ピナレロ史上最軽量フレーム(900g/サイズ54・カタログ値)となっている。さらに前後フォークやヘッドチューブ、BB周辺にはコンピューター解析によって導き出された波のような造形が施され、優れた振動吸収性を引き出しているという。
PINARELLO PRINCE CARBON
ディテール 01 ディテール 02 ディテール 03
初代とは趣を異にするがピナレロにしか出し得ない“艶”を放つプリンスカーボン
数年前に手に入れた初代プリンスはロードバイクの深みを教えてくれたpinarello carbon image 01
  “ピナレロ・プリンス”という車名は僕にとって、単に競技用自転車の名称という以上の特別な響きを持っている。8年ほど前、貧乏学生だった僕にとってはまさに憧れのブランド、羨望のフレームであり、手の届かない高嶺の花だった。チタンのように整った溶接痕、端整で美しい形状のフレーム、グラデーションを多用した芸術的なペイント。当時としては驚きのフレームセット35〜40万円というプライスタグを下げ、上質な紙で綴られたカタログの中でデュラエースとコスミック・カーボンで着飾って燦然と輝いていたものだ。
その後、僕はその初代プリンスを手に入れるのだが、なんだか手にしてはいけないものを手にしてしまったような背徳感、そして軽い虚無感すら感じたことを覚えている。当時乗っていたTREKのOCLVの実力とは違う場所に位置するプリンスのしなやかな超高性能は、僕に「ロードバイクの性能には時として感性が宿る」ということを知らせ、その脆い塗装で「美しいものは儚い」という真理まで教えてくれたりもしたのだ。

滑らかな曲線で構成され、力強さ溢れるニュープリンス
  いきなり話が逸れてしまった。初代プリンスにまつわる超個人的回想はこのくらいにして、プリンス・カーボンである。ピンと張った直線で構成され、華麗で華奢な佇まいを見せる初代プリンスに対して、筋肉の隆起を思わせるマッシブなルックスの二代目。カラーリングもキッパリとした塗り分けになり、初代の甘い面影はこのニューモデルを目の前にしてあっさりと砕け散る。しかし、それは初代とは別種の、凄まじい“艶”を放っているのである。野生動物のしなやかで美しい跳躍を連想させる力強い造形。思ってみれば人生初の100万円オーバーモデルだ。少し緊張しながらペダルを踏み込んだ。
さらなる加速を要求する動力伝達性、ヒルクライムでの鋭い反応性を堪能する
ソフトだが芯は硬く、目の覚めるような加速をみせる
pinarello carbon image 02  表皮一枚のしっとりとした感触に騙されそうになるが、その中身はソリッド、ハード、スパルタン。ガチガチのフルアルミフレームの乗り味をコンクリートの床を裸足で踏みつけているような感覚だとすれば、このプリンス・カーボンはコンクリートの床に上質なコノリーレザーを敷いたようなイメージだ。そして平坦な道路を緩い下り坂に錯覚させるほどの超軽快な加速。表面だけはソフトだが、パリッと乾いた気持ちのいい加速感でLOOKのペダルが地面と直結しているかのような駆動力が得られる。
アルミリムのカンパニョーロ・シャマルが付いてこの反応性なのだから、軽量なカーボンホイールを入れたらどんな加速を見せるのか、ちょっと想像が難しい。しかし、それなりの速度までバイクを加速させても、サドルにポフッと腰を下ろして一息つこうとはなかなか思わせてくれないのがプリンス・カーボンだ。ペダルの向こうにはもっと踏むべきモノがある、と本能に思い込ませてしまう強制力がある。

硬派なライディングフィールは登坂でも攻撃的なペダリングを誘う
  ヒルクライムでも電光石火の反応性。どんなギア、どんな斜度でもトルクをかけた瞬間にスパッと前に出てくれる。シッティングのイーブンペースで黙々と登るより、アタックをかけたりアタックに反応したり、ダンシングを交えてスピードのアップダウンを激しく楽しむようなアグレッシブなライダーにピッタリの味付けだ。 しなりのあるフレームに慣れているせいだろうが、高速域からのさらなる加速や巡航性には多少のクセを感じた。このバイクのリズムを掴むのがプリンス・カーボンの高速域を手なずけるポイントとなるだろう。カーボンディープホイールを入れてみても面白いかもしれない。
この卓越した性能、研ぎ澄まされた鋭さ、洗練された猛々しさを、どう乗りこなすか
トップアマチュア以上のライダーには確実にアドバンテージをもたらすオールラウンドバイクpinarello carbon image 03
  開発にはケスデパーニュの選手が関わったと聞くが、その宣伝文句も納得のスパルタンな性格だ。いかにもプロ好みの味付け…というかプロに近い脚力を持ったライダーでないと性能の100%を引き出すことは困難だと言ってしまっていいだろう。僕ごときの脚力では50tグレードのカーボンにたわみらしいたわみを発生させることすら難しい。ワンエイティで峠を攻めているニイちゃんがいきなりF1マシンに乗るようなものだ。
  次回のレポートでマドン5.2の快適性について「文句のつけようがない」と書くつもりだが、このプリンスの振動伝達性はレーシングロードバイクとしては理想かもしれない。はっきり言って、硬い。小さなギャップまでコツコツと伝えてくる。すぐ手の平やお尻が痛くなるような人は乗るべきではない。しかしやはりカーボンだからなのか、振動の収束がすさまじく速いのだ。必要な情報はしっかりと伝えてくれながらバイブレーションが全く不快ではない。とは言ってもこのスパルタンな性格のバイクだ。ロングライドよりは短〜中距離のロードレースや、動きが激しいヒルクライムレースなどに向いている印象を受けた。いわゆる 「勝てるバイク」 だ。脚に自信のあるレーサーにとっては、乗り手をポディウムの中央に最も近づけてくれる頼もしいバイクとなるだろう。

金属フレームにこだわり続けたピナレロが、再びロードバイクシーンの先駆者に
  試乗車は世界500台限定のSOE(Simulation Optimize Evolution)バージョンで、ピナレロオリジナルパーツがアッセンブルされていたのだが、フレームと同じ50tHMカーボンで製作されたカーボンクランクの歯数はコンパクトの50−34T。プリンスの性格や乗るべき人の脚力、使用すべき速度域を考えると、少し疑問が残るポイントではある。このバキバキのレーシングバイクにコンパクトが必要だろうか?ヒルクライムオンリーならいいのだろうが、ゆったりとクルージングを楽しむバイクではないだろう。
のんべんだらりと走らせるバイクでもない。
血気盛んなコンバット・ロードバイクである。
どんなにキツい登坂であっても、39×21あたりのギアでかっ飛ぶべきなのだ。

  ピナレロ帝国の二代目王子は血統・ルックス・センス・才能、どれも抜群。特別なオーラを纏い血の気が多く、争い事が大好きな彼は車上のあなたに味わったことのないスピードとめくるめく快楽の世界を体験させてくれるだろう。しかしどうやら付き合うには多少の財力とそれなりの脚力、さらに根性と度胸が必要らしい。

さぁ、どうする?
プロフィール

インプレライダー 安井行生

インプレライダー:安井行生
YUKIO YASUI

大学で機械工学を学んだのち、4年間のメッセンジャー生活を経て現在はサイクルスタイルをメインに活動する自転車ライター。ハンドル幅やクランク長、サドル形状までこだわってポジションを出し、一台につき100km程を走ることでバイクに対する理解度を深め、意味のあるインプレッションを目指す。164cmと小柄なのでフレームサイズで苦労するのだが…体重は52kg、脚質は回転系でヒルクライムと猫が好き。1981年生まれ。

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